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札幌高等裁判所 昭和58年(行コ)3号 判決 1985年3月27日

控訴人・被告 旭川市固定資産評価審査委員会 右代表者委員長 能登正博

訴訟代理人 小野寺彰

被控訴人・原告 塚本勲

代理人 大萱生哲

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一1  原判決二枚目裏三行目「同年六月二日」以下同四行目末尾までの部分を「同日付をもつて被控訴人の右審査の申出を棄却する旨の決定(以下「本件審査決定」という。)をし、同年六月二日に被控訴人に通知した。」と訂正し、同六枚目裏四行目の「おいて」の次に「昭和五三年度及び同五四年度の」を付加する。

2  原判決六枚目裏五行目の次に改行のうえ次のとおり付加する。

「さらに、控訴人は被控訴人に対し、次のとおり、本件口頭審理外の手続においても、標準宅地の所在位置、その時価、算定根拠を開示し、かつ本件土地の周辺の路線価をも開示している。すなわち、本件審査申出前である昭和五四年四月一三日及び本件審査中出当日である同年五月二日の二回にわたり、当時旭川市職員であつた訴外松田徹(以下「松田」という。)は、被控訴人の要求に従い昭和五四年度に係る標準宅地の所在位置、その時価、算定根拠を開示し、かつ本件土地周辺の同年度路線価図をも開示した。なお、右標準宅地は本件土地の一部であつて、本件審査決定書(甲第二号証の二)に旭川好鳥園と記載されている部分(以下、右標準宅地を「標準宅地旭川好鳥園」という。)である。」

3  原判決六枚目裏七行目の「更に、」の次に「本件口頭審理において」を付加する。

二  控訴人の新たな主張(本件土地の固定資産評価額の適正)

1  仮に、控訴人が被控訴人に対し、本件土地周辺の土地の評価額を開示しなかつた点ないしその固定資産課税台帳の縦覧を許さなかつた点に違法があるとしても、本件土地の固定資産評価額及び課税標準額はいずれも次の2ないし5に述べるとおり適正に決定され、本件土地の評価は適法になされているので、被控訴人の本訴請求は理由がない。

2  固定資産評価の基準及び方法

(一) 地方税法三四九条一項は「基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋……に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格……で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳……に登録されたものとする。」と規定し、さらに同法三四一条五号は「価格」とは「適正な時価をいう」と規定している。

(二) 右の「適正な時価」の決定について、同法四〇三条一項は「市町村長は……三八八条一項の固定資産評価基準によつて、固定資産の価格を決定しなければならない。」と定め、同法三八八条一項前段は「自治大臣は固定資産の評価の基準の方法及び手続を定め、これを告示しなければならない」と定め、同法三八八条一項の規定に基づき定められた自治省告示(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号)である固定資産の評価基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)には、土地の評価は現況に基づいて地目別に行なわれ、宅地の評価は売買実例価格から求める正常売買価格に基づいて適正な時価を評定するという方法によるとされている。

(三) そして宅地の評価は、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点一点当りの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める方法によるものであるが(右評価基準第1章第3節一)、その評点を付するについては、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」によつて、主として市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地については「その他の宅地評価法」によつてこれを付設することとされている(右評価基準第1章第3節二)。

(四) 本件土地は右にいう市街地を形成する地域における宅地に当り、従つて本件土地は「市街地宅地評価法」によつて評価するのであるが、その手順は次のとおりである。

(1)  市内の宅地をその利用状況によつて商業地区(繁華街、高度商業地区、普通商業地区)、住宅地区(併用住宅地区、高級住宅地区、普通住宅地区)等の各用途地区に区分する。

(2)  前記によつて区分した各用途地区を街路の状況、公共施設等の接近状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて、その状況が相当に相違する地域ごとに区分し、当該地域の「主要な街路」を選定する。

(3)  主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定する。

(4)  標準宅地について売買実例価額等から適正な時価を評定する。

(5)  標準宅地の適正な時価に基づいてその沿接する主要な街路に路線価(標準宅地路線価)を付設する。

(6)  標準宅地路線価に比準してその他の街路に路線価を付設する。

(7)  路線価を基礎として画地計算法を適用し、各筆の宅地の評点数(評価額)を求める(右評価基準第1章第3節二(一))。

3  本件土地の具体的評価

(一) 被控訴人の所有に係る本件土地は、固定資産評価基準にいわゆる主として市街地的形態を形成する地域における宅地のうちの普通商業地区に属する。訴外旭川市長は、当該地区における標準宅地として、本件土地のうち旭川好鳥園なる建物のある旭川市六条通七丁目三一番五号(以下、単に「六条通七丁目三一番五号」などという。)の標準宅地旭川好鳥園部分と喫茶店クローバーのある六条通七丁目三一番一六号の土地(以下、右標準宅地を「標準宅地喫茶店クローバー」という。)とを選定した。

(二) 標準宅地の適正な時価及び路線価については、売買宅地の正常売買価格を基礎として、標準宅地と売買事例宅地の位置、利用上の便等の相違並びに基準宅地及び標準宅地相互間の評価の均衡と、さらには精通者価格及び相続税路線価等を総合的に考慮して評価することとされているが(前記評価基準第1章第3節二(一)1(2) 、同3(1) 1及び7)、その趣旨は適正な時価及び路線価については全体のバランスの中で総合的に評価することを明示したものに他ならない。

(三) ところで、基準宅地とは、最高の路線価を付設した街路に沿接する標準宅地をいい(右評価基準第1章第3節三2(1) )、旭川市においては三条通七丁目四二四番地の二の土地がそれであるが、昭和五四年度の固定資産評価に際し、この基準宅地の精通者価格が一平方メートル当り金五七万九〇〇〇円であつたことから、旭川市長は右基準宅地の価格を先ず一平方メートル当り金六〇万円と評定した。

ついで、指定市以外の適正な時価及び路線価については、都道府県知事が、指定市の適正な時価及び路線価との均衡を考慮し、市町村間の均衡上必要があると認める時は、市町村長が評定した適正な時価及び路線価について所要の調整を行なうこととされており(右評価基準第1章第3節三2(2) 及び(3) 、同3(1) )、右による調整後の昭和五四年度の基準宅地路線価は一平方メートル当り金三一万円と決定された。因みに、昭和五一年基準年度の基準宅地の路線価は一平方メートル当り金二六万円であり、約一・二倍の上昇率である。

(四) ところで、本件土地の一部である「標準宅地旭川好鳥園」の正面(南側)路線価は次のとおり決定した。

すなわち、右標準宅地に関する売買実例地は右標準宅地から基準宅地に向つて約一三〇メートル南方で、右標準宅地と同一用途地区内(但し高度商業地区)の五条通七丁目に所在し、その昭和五一年九月当時における売買実例価格は一平方メートル当り金二二万四〇〇〇円であつた。そこで、旭川市長は、右売買実例価格をふまえたうえ、右標準宅地(正面)の精通者価格が一平方メートル当り金一一万九〇〇〇円であつたことや右標準宅地(正面)と売買実例地との位置関係等を考慮して、右標準宅地(正面)の価格を一平方メートル当お金一一万九〇〇〇円と評定した。

そして、基準宅地の路線価の上昇割合、基準宅地の基準価格と路線価との乖離の割合、近傍の標準宅地の標準価格と路線価との乖離の割合、相続税の路線価の上昇割合等を総合的に考慮して、右標準宅地の正面路線価を一平方メートル当り金七万円と決定した。因みに、この路線価の上昇率は昭和五一年の基準年度の約一・二倍である。

(五) なお、「標準宅地喫茶店クローバー」の背面(北側)路線価については、旭川市長は、前記の売買実例価格をふまえたうえ、右標準宅地(背面)の精通者価格が一平方メートル当り金九万一〇〇〇円であつたことなどの理由により、右標準宅地(背面)の価格を一平方メートル当り金九万円と評定した。

そして、その路線価については、前記(四)と同様の方法により、一平方メートル当り金五万一七〇〇円と決定した。その上昇率は、前基準年度の約一・二倍である。

(六) さらに、本件土地の東側の通路(以下「本件通路」という。)は、前記二2(四)(6) に記載の「その他の街路」に該当するところ、適法かつ適正に付設された前記各標準宅地の路線価を基礎として、街路の状況、公共施設等の接近状況、家屋の疎密度、その他の宅地の利用上の便等の相違等を総合的に考慮して、本件通路の路線価は、一平方メートル当り金四万三五〇〇円と決定した。

4  六条通六丁目の街路の路線価について

(一) 被控訴人が本件土地と比較している六条通六丁目の街路(以下「六丁目街路」という。)は、固定資産評価基準に所謂主として市街地形態を形成する地域における宅地のうち、併用住宅地区に区分されるが、旭川市長はこの土地が含まれる当該地区における標準宅地としてニユー北海ホテルのある五条通六丁目一五七七番地の一の土地(以下、右標準宅地を「標準宅地ニユー北海ホテル」という。)と第一パーキングのある七条通六丁目二四二八番地の二五の土地(以下、右標準宅地を「標準宅地第一パーキング」という。)を選定し、前記のように、これらの標準宅地の路線価から比準して「六丁目街路」の路線価を付設したのである。

(二) 「標準宅地ニユー北海ホテル」の路線価は次のとおり決定した。すなわち、右標準宅地に隣接する土地(もとより併用住宅地区内)の売買実例価格が昭和五三年一月当時一平方メートル当り金一五万一〇〇〇円であつた。そこで、旭川市長は、右売買実例価格をふまえたうえ、右標準宅地の精通者価格が一平方メートル当り金八万九一〇〇円であつたことなどの理由により右標準宅地の価格を一平方メートル当り金九万円と評定した。

そして、その路線価については、前記3(四)と同様の方法により一平方メートル当り金四万九二〇〇円と決定した。右路線価の上昇率は、前基準年度の約一・二倍である。

(三) また、「標準宅地第一パーキング」の路線価については、旭川市長は、前記の売買実例価格をふまえたうえ、右標準宅地の精通者価格が一平方メートル当り金五万二三〇〇円であつたことなどの理由により、右標準宅地の価格を一平方メートル当り金五万二〇〇〇円と評定した。

そしてその路線価については、前記2(四)と同様の方法により一平方メートル当り金二万九三〇〇円と決定した。右路線価の上昇率は、前基準年度の約一・二五倍である。

(四) 「六丁目街路」は、前記二2(四)(6) に記載の「その他の街路」に該当するところ、適法かつ適正に付設された右各標準宅地の路線価を基礎として、本件通路と同様、総合的な考慮の結果、その路線価を一平方メートル当り金二万八五〇〇円と決定した。そして、右路線価の上昇率は、前基準年度の約一・二五倍である。

5  評価の総合性について

(一) 以上、何れの場合も、標準宅地の路線価は標準宅地の価格より相当大幅に下廻つて決定されているが、これは基準宅地及び各標準宅地間の路線価のバランスを考慮したこと、基準宅地及び相続税の路線価の上昇割合を考慮したこと、更に前基準年度の評価額に対する上昇率は、一般的には概ね二割、状況変化の著しい地域については概ね二倍を目途とする旨の北海道の指示があつたこと等を総合的に勘案した結果によるものであり、評価は斯くの如く全体のバランスの中で総合的に実施されねばならない。

(二) なお、被控訴人は、本件土地の登録価格が本件土地より時価の高額である周辺の土地の登録価格より高額であると推測されるとか(請求の原因4の(一))、本件土地の路線価は「六丁目街路」の路線価に比較すると高いとも主張しているが(甲第四号証)、そのような事実は全くなく、かつ本件土地の用途地区は普通商業地区に属し、「六丁目街路」は併用住宅地区に属しているもので、用途地区の異なる土地相互間における価格を比較すること自体が誤りである。

三  控訴人の新たな主張に対する被控訴人の認否及び反論

1  控訴人の新たな主張1は争う。

地方税法において、固定資産の評価について特に不服申立てを認め、また固定資産評価審査委員会なる独立した第三者機関を設けてその審査にあたらせることとしているのは、固定資産の評価には、専門技術的な知識、経験を必要とし、多分に主観的、恣意的な要素の加わるおそれがあるところから、納税者の権利・利益を保護するために、また評価の客観的合理性を担保させ、もつて固定資産税の適正な賦課を期せんとする趣旨であり、特に口頭審理の制度は右の趣旨を徹底させるため審査申出人に対し手続参加の権利を与え、口頭審理にあつて審査委員会が審査申出人に対し不服の限度に応じて評価の根拠・計算方法等価格決定の理由を明らかにすることは審理の基礎的な要請であり、これによつてはじめて審査申出人をして法律上保障された攻撃・防禦の方法を尽さしめることが可能となるのであるから、審査申出人に対し価格決定の理由を示さずなされた審査決定は、固定資産評価台帳に登録された価格自体の適否如何にかかわらず、違法なものとして取消を免がれないものである。

しかるところ、本件口頭審理において、被控訴人は、本件土地は買い物公園に近いが「本件通路」は舗装されておらず道路でもないこと、舗装されかつ歩車道の区別のある六条本通り・昭和通りの時価(取引価格)は本件土地より高額であるにもかかわらず、固定資産の評価額は本件土地より低額であること、本件土地の評価が適正ではないこと、固定資産評価基準による路線価が開示されなかつたので被控訴人は右の結論を相続税の路線価から推測したことなどを主張したにもかかわらず、控訴人は、本件土地の路線価及び昭和通り・六条本通り等の路線価を示さず、またこれらの各路線価の評価根拠・計算方法等価格決定の理由を了知させる措置をもとつていない。

2  控訴人の新たな主張2の(一)ないし(四)の事実は認める。

3  同3(一)の事実は知らない。同3(二)の前段の事実は否認し、後段の主張は争う。同3(三)のうち、基準宅地の意義及び指定市以外の適正な時価及び路線価については都道府県知事が控訴人主張のとおりの調整を行なうこととされていることは認めるが、その余の事実は知らない。同3(四)のうち、「標準宅地旭川好鳥園」の正面路線価が一平方メートル当り金七万円と決定されたことは認めるが、その余の事実は知らない。同3(五)のうち、「標準宅地喫茶店クローバー」の背面(北側)路線価が一平方メートル当り金五万一七〇〇円と決定されたことは認めるが、その余の事実は知らない。同3(六)のうち、「本件通路」の路線価が一平方メートル当り金四万三五〇〇円と決定されたことは認めるが、その余の事実は知らない。

4  同4(一)の事実は知らない。同4(二)のうち、「標準宅地ニユー北海ホテル」の路線価が一平方メートル当り金四万九二〇〇円と決定されたことは認めるが、その余の事実は知らない。同4(三)のうち、旭川市長が「標準宅地第一パーキング」の価格を一平方メートル当り金五万二〇〇〇円と評定したことは認めるが、その余の事実は知らない。同4(四)のうち、「六丁目街路」の路線価が一平方メートル当り金二万八五〇〇円と決定されたことは認めるが、その余の事実は知らない。

5  同5(一)、(二)は争う。

6  控訴人の主張に対する反論(固定資産評価基準に違反し、正常売買価格に基づくことなく「適正な時価」を評定した違法)

(一) 固定資産評価基準は、土地の価格につき正常売買価格から適正な時価を評定する手段であるから、適正な時価は正常売買価格を適確に反映したものでなければならない。

(二) ところで、本件口頭審理で、被控訴人において正常な売買価格を反映していないと具体的に指摘した路線価につき、控訴人主張の正常売買価格(以下の「控訴人の価格」)及び「評定にかかる適正な時価」及び被控訴人主張の正常売買価格(以下の「被控訴人の価格」)を比較すると次のとおりとなる。

番号 街路名 「被控訴人の価格」/平方メートル 「評定にかかる適正な時価」/平方メートル 「控訴人の価格」/平方メートル

<1> 本件土地正面(六条通七丁目本通) 二四万二〇〇〇円 七万円(約二九%) 一一万九〇〇〇円(約四九%)

<2> 本件土地背面(六条通七丁目北側) 一八万二〇〇〇円 五万一七〇〇円(約二八%) 九万円(約四九%)

<3> 本件通路 一二万一〇〇〇円 四万三五〇〇円(約三六%) 不明

<4> 五条通六丁目本通 三〇万三〇〇〇円 四万九二〇〇円(約一六%) 不明

<5> 六条通六丁目昭和通 三九万四〇〇〇円 五万八八〇〇円(約一五%) 不明

<6> 六条通六丁目本通 二一万二〇〇〇円 二万八五〇〇円(約一三%) 不明

<7> 五条通六丁目六条通六丁目仲通 一六万七〇〇〇円 二万七三〇〇円(約一六%) 不明

(三) 「被控訴人の価格」と「評定にかかる適正な時価」とを比較すると、右<1>及び<2>の路線価については、右適正な時価は「被控訴人の価格」の約二九パーセントの割合になつているが、<3>の路線価については、右適正な時価は「被控訴人の価格」の約三六パーセントの割合であり、<4>ないし<7>の路線価については、右適正な時価は「被控訴人の価格」の約一三ないし一六パーセントの割合となつている。ちなみに、「控訴人の価格」と右適正な時価を比較すると、<1>及び<2>の路線価については、右適正な時価は「控訴人の価格」の五五パーセント前後の割合である(なお<4>ないし<7>の路線価も同じような比率と推測される)。

したがつて、旭川市の前記<1>ないし<7>の路線価は正常な売買価格から評定されているものとはいえない。

(四) このように、旭川市の路線価が正常な売買価格による適正な時価となつていないのは、次の如く固定資産評価基準に基づき評価していないからである。

すなわち、第一に標準宅地の選定に関して、宅地の利用状況を基準とした用途区分をなし、右用途区分した各地区を街路の状況、公共施設等の接近状況、家屋の疎密度、その他の宅地の利用上の便等から相当に相違する地域ごとに区分し、主要街路に沿接するものから標準宅地を選定することを怠つたものと推測されることである。例えば、前記<3>地区は、現実の利用状況からみるとほとんど併用住宅地区であり、街路の状況は幅員が五・四五メートルで歩車道の区別のない未舗装街路であり、指定道路でもないため冬期間は除雪等の公共サービスの行なわれない所であるのに対し、前記<4><6>及び<7>の各地区は、現実の利用状況が居住用住宅のほとんどない大部分が商業施設しかも高度利用された施設であり、街路の状況は幅員が二〇メートル以上で歩車道の区別された舗装道路であり、冬期間除雪等の公共サービスの行なわれている所であるにもかかわらず、前者につき普通商業地域とされ、後者につき併用住宅地区とされている。

第二に、標準宅地の適正な時価を宅地の売買実例価額から評定するものとされているにもかかわらずこれによつていないことは、控訴人が各標準宅地の売買実例価格を主張せず精通者価格を主張していることからも推測される。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1(被控訴人が本件土地の共有者であること)、同2(本件土地に対する昭和五四年度の固定資産税の評価額及び課税標準額の課税台帳登録)、同3(被控訴人の審査申出とこれに対する本件口頭審理の開催及び審査決定の存在)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  本件審査決定手続の違法性について

1  固定資産評価審査委員会制度の意義などについて

(一)  市町村長は、固定資産評価員が固定資産評価基準に従つて行なつた評価に基づいて固定資産の評価等を毎年二月末日までに決定しなければならず(地方税法四一〇条)、右評価等を決定した場合においては、直ちにその価格等を固定資産課税台帳に登録しなければならない(同法四一一条一項)。そして、課税台帳に登録された事項について不服のある固定資産税の納税者は、委員会に審査の申出をすることができる(同法四三二条一項)旨定められている。

(二)  委員会は、右申出を受けた場合においては、直ちに必要と認める調査、口頭審理その他事実審査を行ない、右申出を受けた日から三〇日以内に審査決定をしなければならないが(同法四三三条一項)、審査を申し出た者の申請があつたときは、特別の事情がある場合を除き、口頭審理の手続によらなければならず(同条二項)、口頭審理を行なうときは、審査を申し出た者、市町村長または固定資産評価員その他の関係者の出席及び証言を求めることができ(同条三項)、その手続による審査は、公開して行なわなければならない(同条六項)とされている。

(三)  固定資産税の納税者は、委員会の決定に不服があるときは、その取消しの訴えを提起することができるが(同法四三四条一項)、固定資産税の賦課についての不服申立てにおいては、固定資産の価格や委員会の決定の違法を争うことは許されない(同条二項、同法四三二条三項参照)。

(四)  右のように、法律上、課税台帳に登録された価格等について不服のある固定資産税の納税者に審査の申出をなすことを認め、かつ独立した第三者機関たる委員会を設けて、これに事実審査に基づく審査決定を行なわせることとしているのは、固定資産の評価には、専門技術的な知識や経験を必要とするばかりでなく、多分に主観的かつ恣意的な要素の加わる虞があるので、事後的にもせよ評価の客観的合理性を担保させ、もつて固定資産税の適正な賦課を期せんとする趣旨に出たもので、固定資産評価審査委員会制度は、納税者の権利保障制度であり、租税法律主義の理念の要請に合致するものと解される。そして、固定資産課税台帳の縦覧制度と相まつて、口頭審理制度は、この趣旨に基づき、審査申出人に対して手続参加の権利を与えたものということができる。

ところが、固定資産の評価は、固定資産評価基準に定められた複雑な専門技術的かつ計算の手順を経てなされるため、納税者としては、課税台帳を縦覧して評価額を知り、これに対し不服の念を抱いたとしても、如何なる算出根拠や計算方法によつて右の評価額が決定されたかについては、通常殆んどこれを知ることができないのみならず、審査の申出も、右縦覧後比較的短期間内にこれをなすべきものと定められている(同法四三二条一項参照)。

(五)  以上の諸点に鑑みると、委員会としては、課税台帳に登録された固定資産の評価に関する審査の申出を受けた場合、まず、審査申出人に対し、不服事由を明らかにし、かつ不服事由となつた評価に関する反論の主張及び立証をするための合理的に必要な範囲で、評価の根拠や計算方法等価格決定の理由を了知させる措置をとるべきである。

すなわち、これを土地についていえば、委員会は、少なくとも、当該土地の地目や市街地性の認定結果、「市街地宅地評価法」の実施に関しては、用途地区の区分結果、標準宅地の所在位置、その適正な時価や路線価とその算出根拠、当該土地の路線価や評点数と評点一点当りの価格、さらに後記のように審査申出人が自己の所有する土地の評価額が適正かつ公平なものであるか否かを対比検討するために合理的に必要な範囲の当該土地周辺の宅地の評価額や路線価などを、自ら、もしくは市町村長あるいは固定資産評価員をして、口頭審理の内外を通じ、審査申出人に明らかにし、もつて不服事由に関する主張及び立証の機会を実質的に保障することが要請され、委員会がこれを怠るときは、その審査手続は公正を欠き違法たるを免れないものというべきである。

(六)  控訴人は、右の点に関し、特定土地の周辺の土地の評価額は、同土地の所有者本人またはこれと同等に扱われる代理人に限つて公表すべきであり、右評価額を第三者に開示することは、地方税法二二条(秘密漏えいに関する罪)及び地方公務員法三四条(守秘義務)の規定に牴触することになる旨主張する。

しかし、課税台帳の縦覧制度(地方税法四一五条参照)の趣旨は、納税者に台帳の縦覧を通じて、その所有する固定資産の評価を知り、これが適正に行なわれているか否か及び右評価が他の納税者の場合と比較して公平に行なわれているか否かを検討させる機会を与えることにあり、右縦覧制度は、固定資産評価審査委員会制度と同様に納税者の権利保障制度であると考えられ、このような縦覧制度の趣旨及び目的に照らすと、納税者が縦覧することのできる課税台帳の範囲は、自己の所有する固定資産に関する部分のみならず、右の諸点を検討するうえで合理的に必要な範囲の他の固定資産に関する部分も含まれるものと解するのが相当である。

したがつて、右の限度において、委員会が、前記のように周辺の土地の評価額を審査申出人に対して明らかにすることは許されるものというべきであるから、控訴人の前記主張は、これを採用することができない。

2  本件審査手続について

前記当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第一号証、同第二号証の一、二、同第三、第四号証、同第一二号証の三、乙第六ないし第九号証、同第一一号証の一ないし五、同第一二号証(甲第一号証、同第四号証、乙第六ないし第九号証は原本の存在とも)、原審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)によつて真正に成立したと認める甲第五号証の一、三、原審証人能登正博、同秦雅興、当審証人小林恒彦、同松田徹の各証言(いずれも後記措信しない部分を除く。)、原審(第一、二回)及び当審(第一、二回)における被控訴人本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、原審証人能登正博、同秦雅興、当審証人小林恒彦、同松田徹の各証言中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  被控訴人は、昭和五三年九月八日父である訴外塚本勉が死亡し、訴外塚本實子と共に本件土地を共同相続(なお、被控訴人の共有持分は三分の二である。)したものであり、したがつてその固定資産税の納税義務者である。

(二)  被控訴人は、昭和五三年一一月ころ、右相続税の納付申告の準備のため、旭川中税務署を訪れ本件土地の相続税の路線価を尋ねたところ、右税務署の担当者より、本件通路には右路線価が付設されていないので、後日、旭川市の固定資産税の路線価を参考にして右路線価を付設したうえで、これを被控訴人に連絡する旨の説明を受けた。

(三)  被控訴人は、その後、右税務署から本件通路の相続税の路線価を一平方メートル当り金四万一〇〇〇円と付設したとの連絡を受け、その適正さに疑問を抱きつつも、昭和五四年度の固定資産の評価替に際して本件土地に関し正当な評価がなされれば、右相続税の路線価をより低額に修正してもらうことができるものと考え、税務署から賦課された相続税を一応納付した。

(四)  旭川市長は、地方税法三四一条六号にいう基準年度である昭和五四年度の本件土地の固定資産の評価額を金五一三〇万五三二八円と決定し、これを課税台帳に登録し、昭和五四年四月九日から同月二八日までの間、課税台帳を関係者の縦覧に供した。そこで、被控訴人は、昭和五四年四月一三日、旭川市役所を訪れ、本件土地及びその周辺の土地の課税台帳の縦覧を請求したところ、旭川市の担当者は、本件土地の課税台帳の縦覧は許したものの、その他の土地の課税台帳の縦覧は拒絶した。

なお、右縦覧に際し、被控訴人は、旭川市資産税課土地係長松田徹に面会し、本件通路の路線価を教えてもらいたい旨求めた。これに対し、松田係長は、相続税の路線価と固定資産税の路線価とはそれぞれ別個の手続により付設されるものであるから右両路線価の間に連動関係はない旨説明したうえ、本性土地とその周辺の土地とを含む昭和五四年度の固定資産税の路線価図(乙第六ないし第九号証の路線価図はその一部分である。)を閲覧させたが、右閲覧の時間は極く短時間であつて、右図面上に記載された路線価を記憶したり、そのメモをとつたりする余裕はなかつた。

(五)  被控訴人は、課税台帳に登録された本件土地の昭和五四年度固定資産評価額を不服として、昭和五四年五月二日、控訴人に対し、本件審査の申出をなし、その審査請求書(甲第一号証はその写しである。)には、その理由として「本件土地の評価額が周辺の土地の評価額に比較して割高となつている。」旨記載し、右審査は口頭審理の手続によつてなすことを申請した。

(六)  本件審査の申出を受けた控訴人は、職権により、口頭審理手続外で向審理に先立ち、評価庁たる旭川市長より、本件土地の固定資産の評価額の算出に関する原判決添付別紙目録二の記載事項を内容とする書面、本件土地及びその周辺の土地の昭和五四年度固定資産税の路線価図(乙第六ないし第九号証)、標準宅地価額調査表(乙第一一号証の一ないし五)及び標準宅地路線価表の抜粋などの資料の提出を受けた。

(七)  控訴人は、昭和五四年五月二九日、本件口頭審理を約一時間半にわたり開催したが、被控訴人は、その席上、審査申出の理由として「本件土地は、平和通り(買物公園)には近いが、側方は舗装もなされていない本件通路に面している。このような立地条件にある本件土地と六丁目街路付近とを比較すると、後者にはNHKやホテルの建物が存在しており、時価は後者の方が明らかに高いと思われる。ところが、昭和五三年度の相続税の路線価は、本件土地の方が六丁目街路よりも高く評価されており、この点は固定資産税の路線価についても同様であると考えられる。これは、相続税の路線価が固定資産税の路線価を参考にして付設されることによるものである。そこで、昭和五四年度の固定資産税の路線価について、本件土地がその周辺の土地と比較して不当に高く評価されていないか否かの審査を求める。なお、旭川市当局は、被控訴人に対し、本件土地以外の課税台帳の縦覧を許さなかつたが、これでは本件土地の評価が他の土地と比較して適正かつ公平になされているか否かを検討する機会が与えられないことになり不当である。」旨主張した。

これに対し、旭川市担当者は、「固定資産の評価は、固定資産評価基準及び北海道の指示等に基づいて実施しており、これらの趣旨を十分に踏まえた路線価の決定及び画地計算法等による評価額や課税標準額の算出とその計算過程は、いずれも適切なものである。昭和五一年度の評価は、これより以前に評価替のなされた昭和四八年の評価額と課税標準額との間に負担調整措置により相当の差があつたので、同年から昭和五一年にかけて評価額に対する最低の課税標準額が六〇パーセント程度の負担調整の土地は、昭和五一年度評価額が課税標準額の二倍を超えないよう評価替せよとの北海道の指示があり、また本件土地と六丁目街路とは差があるが、本件土地が平和通りに近いこと及び昭和通りに面して建築されているNHKの建物の裏は日章小学校であり両者の裏側の状況が異なることなどによるものである。なお、被控訴人に対し本件土地の周辺の土地の課税台帳を縦覧させることは、税法及び地方公務員法並びに自治省行政実例に照らし適当ではない。」旨主張したが、それ以上に、本件土地の昭和五四年度の固定資産の評価額の具体的な算出根拠及びそれが適正かつ公平であることの具体的根拠については十分な説明がなかつた。

(八)  右のように、被控訴人は、本件土地の昭和五四年度における固定資産の評価が適正に行なわれたか否か及び右評価が他の納税者の場合と比較して公平に行なわれたものか否かについて本件口頭審理による審査を求めていたものであるが、本件土地の周辺の土地の課税台帳や固定資産税の路線価図の縦覧や閲覧を許されなかつたため、本件口頭審理においては、被控訴人自らが右審理前に入手していた昭和五三年度相続税の路線価に関する資料に基づいて、右審査の不服事由の主張及び立証をなしたものであり、右の事情は控訴人においても明らかなところであつた。

(九)  しかるに、控訴人は、本件口頭審理に先立ち旭川市長より前認定のとおりの資料の提出を受け、本件口頭審理においても控訴人委員は右資料を手許において参照していたが、被控訴人の右資料の開示要求に応ずることはできないと判断してこれを拒絶した。そして、控訴人は、前認定のような旭川市担当者の抽象的な説明を受けたのみで、標準宅地の所在位置、その適正な時価や路線価とその算出根拠、本件土地の路線価や評点数と評点一点当りの価格、審査申出人たる被控訴人が前記不服事由について検討するために必要かつ合理的な範囲の周辺の土地の評価額や路線価などを明らかにする措置をとることもなく、本件口頭審理の手続を終結した。

(一〇)  控訴人は、昭和五四年五月二九日、本件審査の申出を棄却する旨の本件審査決定をなし、同決定書正本(甲第二号証の二)を同年六月二日ころ、被控訴人に対して送付した。

3  以上の認定事実によれば、被控訴人は、基本的には、本件審査申出の不服事由として、昭和五四年度における本件土地の固定資産の評価が高すぎること及びその評価方法や計算根拠の明示がなされないので、右評価が適正かつ公平になされたものであるか否か疑問である旨主張しているところ、控訴人は、本件口頭審理において、評価庁たる旭川市長に対し前認定のような抽象的な説明をさせたのみで、本件土地の具体的な評価方法や計算根拠を明らかにする措置を何らとらず、また職権により提出を受けていた本件土地の評価に関する詳細な前記各資料を示してその内容を被控訴人に了知させたりする措置もとらず、結局右不服事由に関する実質的な主張及び立証の機会を被控訴人に対して与えることなく(なお、前認定の昭和五四年四月一三日における松田係長の被控訴人に対する応対内容ならびに控訴人が、本件審査決定後、本件土地の固定資産評価額の一応の算出根拠を記載した書面を添付して本件審査決定書正本を被控訴人に送付していることなどを考慮に入れても、なお到底右主張及び立証の機会は保障されていなかつたというほかはない。)、本件審査決定をなしたものというべきである。

そうすると、本件口頭審理の手続には右の点において重大な瑕疵があるというべく、本件審査決定は、その余の点について判断するまでもなく、違法な行政処分として取消を免れない。

三  結論

よつて、本件審査決定の取消を求める被控訴人の本訴請求は、正当としてこれを認容すべく、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀧田薫 裁判官 吉本俊雄 裁判官 井上繁規)

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